乗用車を運転中に別の乗用車と衝突し、相手方の女性に脳脊髄(せきずい)液減少症を発症させたとして、業務上過失傷害罪に問われた牧之原市の自動車販売修理業の男性被告(64)の判決が19日、静岡地裁であった。同症は医学上明確な診断基準が確立されておらず、裁判では交通事故と発症との因果関係の有無が争点になったが、長谷川憲一裁判長は「症状が事故以外の原因によって起こった可能性を否定できない」として因果関係を認定せず、被告に罰金30万円(求刑・罰金50万円)を言い渡した。
判決によると、男性被告は2002年8月1日午後3時20分ごろ、乗用車で旧相良町の交差点を右折する際、対向してきた女性(当時59歳)の乗用車と衝突。女性の車は横転して道路脇の水路に転落し、女性は3週間の全身打撲のけがを負った。
脳脊髄液減少症は、脳と脊髄を循環する脳脊髄液が漏れ、頭痛やめまい、背中などの痛みが生じる病気。ただ、起きる原因や症状などの診断基準は医学界でも一定していない。
男性被告の裁判で検察側は冒頭陳述などで、「事故後、女性は全身の痛みや頭痛、吐き気などによって、家族の介助なしでは生活できない状態にある」と説明し、この日の判決で長谷川裁判長も「女性が症状を偽っていないことは明らか」と認めた。
だが、検察側が、これらの症状を「事故が原因の脳脊髄液減少症」と主張したのに対し、判決で長谷川裁判長は「(女性を)脳脊髄液減少症と認定する明確な所見は認められない」と指摘したほか、「女性の症状と事故とに因果関係があると言うには疑いが残る」とも述べ、因果関係を認めなかった。
判決後、被告側の杉田雅彦弁護士は記者会見し、「予想通りの判決。医学界で診断基準が確立しないうちは、起訴するのはやめてほしい」と述べた。一方、土持敏裕・静岡地検次席検事は「いろいろ議論があることは承知のうえで起訴に踏み切った。控訴するか否かは慎重に検討する」とのコメントを出した。
(2008年5月20日読売新聞)